年の瀬に出会った映画と小説

 

今年も終わりですね。

今年最後のブログの内容どうしよっかなぁと悩んでいたんですけど、

そうだ、本の感想について書こうと思いました。

 

今週のはじめにネットフリックスをスクロールしていると、

大九明子監督・脚本の『私をくいとめて』を発見。

2020年の冬に映画館で公開していたそうです。

kuitomete.jp

 

本の感想と言ったのに急に映画の話をしてどゆこと、と思いの方もいるでしょうけど、ちょっとそこから話させてください(笑)。

僕はタイトルも知らんわくらいの初見だったのですが、見てみるとこれが凄く面白かった。面白かったし、腹から笑えた。

映画のジャンルはラブ・コメディというのかな、僕は全然詳しくないんですけど、というかそういうものを見たのは『君に届け』と『NANA』(は怪しい?)ぐらいだった。僕は映画っていうと、必ず恋愛系のやつは省いてきたので。

 

映画『私をくいとめて』は、主人公である31歳会社員の「みつ子」が、自分の会社に営業に来ている年下の「多田くん」と恋愛する話。こう書くと、働いている者同士のなんてことない恋愛ドラマという設定なんですけど、面白いのはこの「みつ子」には自分自身の中に「A」という話し相手がいるという設定なんですよ。「A」の役割は、みつ子が困ったときに話しかければAが相談に乗るというもので、なるほどANSWERのAなんですよ。しかも、Aの名づけはみつ子自身で、みつ子のこのユーモラスな想像力がとても良い、理由も納得(笑)。しかもみつ子は女優「のん」が演じてて、綺麗な人だわ、ほんと。

 

映画の展開はとてもテンポがよくて、ホイホイと話が進んでいく。

ホイホイ進んでいくのは、やっぱり登場人物の描かれ方がめっちゃコミカルで僕のツボだったからだろう。

特に映画ならではの技法がとてもよかった。

話の筋のネタバレではないので一つだけ紹介したいのは、というか面白ポイントは、映画後半に出てくる「ダブル・デート」のくだりである。

みつ子には会社の先輩である「ノゾミさん」がいるのだが、

このノゾミさんが同じ会社だが部署が違う「カーター」に恋をしていて、先述の多田くんと一緒に「ダブル・デート」をすることになる。

「ダブル・デート」の話の前にノゾミさんとカーターの関係を少し押さえたい。

カーターはイケメンで高身長だが、性格がナルシストの曲者で「オレ様」である。なので職場の人たちからは避けられているのだが、ノゾミさんだけはカーターがカーターとして貫き通しているからこそ「好き」なのである(笑)。ということは誰にも好かれないということ、つまりノゾミさんにとっては競争相手がいないということなので、ノゾミさんにとっては願ってもないチャンスなのである。ここまでの冷静な分析をちゃっかりしてしまうのがノゾミさんなのである(笑)。しかも、ノゾミさんは好きな人にはとことん?いや過剰に? 尽くす大のおせっかいな性格。みつ子と職場で話すときのノゾミさんはわりと(みつ子から見て)「正直な人」で軽い冗談も言うくらいの性格なので、このギャップがまた面白い。いや、でもね、ノゾミさんは、みつ子が多田くんといい感じになったと報告したときに、「ヤッた?」と聞くほど節操もない人なんですよね(笑)。ノゾミさんの性格を「正直」と言っていいのかは個人的には疑問だ(笑)。

こんなノゾミさんが「ダブル・デート」の当日に荷物でパンパンの肩掛けバッグを背負ってやってくる。ホッカイロやら温かい飲み物やら、カーターの「オレ様」な態度を見こして必要なモノはすべて用意してくる。そのバッグをノゾミさんがパッと身体の後ろから前へ振るカットがあるのだが、これがもう秀逸もの。いや、悶絶もの。映画とはいえ動画なのでそのカットが瞬間的に二度再生される(笑)。パッパッという感じ。それだけで面白いのに、そんな姿を見た多田くんがみつ子に「ノゾミさんのかばんってドラえもんのポケットみたい」とぼそりとつぶやく(笑)。ここでそんなうまいツッコミするかぁ~と笑ってしまった。ちなみに、この多田くんのセリフは原作の単行本では「そのバッグから、なんでも出てきますね」だけ。つまり、映画で取り入れられたセリフとのことで、この面白さを出してくる大九監督がすごい。台本にはあったのだろうか、それとも当日アドリブで取り入れたのか、真相は分からないけどこれは映画『私をくいとめて』のオリジナルな「笑い」なのだろう。これだけで傑作、天才、座布団3枚である。言い過ぎかな(笑)。もちろん、他にも映像の効果がうまく出ていたと思うカットがいくつかあるけど、それはやっぱり見て確かめてほしい。映像ってすごいなぁと思う。

 

映画『私をくいとめて』を見終えてみてすごい面白かったから、そうだ、原作はあるのかなぁと思って調べてみると、ありました。

綿矢リサ『私をくいとめて』でした。2017年に朝日新聞出版から単行本として発刊されたとのことです。もともとは朝日新聞に2016年4月から12月までに連載されていたみたいですね。僕は朝日新聞とってないので知りませんでした。。

映画を見た翌日にさっそく図書館で借りて没頭して読んでしまいました。気がついたら二日で読み切ってしまうことに。それくらい、綿矢リサ『私をくいとめて』もテンポが良く、またコミカルだったんですよね~。映画も良いし、原作も良い。どっちも良いってすごくないですか。でもね、一つだけ恥ずかしいのは↓

綿矢リサ『私をくいとめて』

この装丁を図書館で持ち歩くのがちょっと恥ずかしかった(笑)。ぼくは全然この表紙を読むような顔してないのでね、まぁ気にしなくていいんかもしれんけどって思えるくらい中身は面白いからね、いいんですいいんです。

映画を見て、みつ子とイタリアへ嫁いだ親友「皐月」との関係性がいまいちよく分からんシーン(暖炉での会話シーンとそこでの「みつ子」の一言)だったので、こっちで確認してみたのですが、実はあまり今もすっきりとしていません(笑)。というか僕が言っている暖炉のシーン自体が原作には無い(?)みたいで(読んだことある人へ。無いよね?)、いまだ映画でのセリフが謎のまま。僕の勝手な予想なんやけど、これはむしろ原作とは関係なく、女優「のん」と女優「橋本愛」との何らかの関係を映画として描いたとのことなのではなかろうか、と再度勝手に思っています。なんかよく比べられている二人だし。偏見かもしれんけど。。なんだったんだろう。

原作を読んで思ったのは、綿矢さんという作家は日本文学がかなり好きなんだろうぁということです。10代のときから小説を書きはじめ、若くして太宰治に魅了されていたというのも読書好きなんやろうぁと思う次第です。それとたぶん話し上手なんやろなとも思う。じゃないとあんなに活き活きとコミカルな笑いを登場人物に語らせないだろうぁと思う。というまたも勝手な推測が始まって、作家綿矢リサってどういう人なんやろかという興味が湧いてきて、図書館で年末年始読むために初作品『インストール』を借りてきました。これから楽しみですね~。

あと言い残したことは、みつ子の「相方」のAという存在がとてもうらやましい。

僕は今年家に閉じこもって日中は一人で過ごすことが多かったから、一人で物事を考えることがとても多かった。昼ごはんは何食べようかという日常生活レベルのものから、これからどういう職種に就いたらいいのか、このままの生活で満足なのか自分は?という悩みまで一人で脳内で頻繁に会話することが多かった。そういうまさに森羅万象の悩みをAが聞いてくれたらいいなぁと思ったのでした。なんでも本音で話せる相手が自分は欲しいんだなぁと思いました。そういう存在がいるみつ子が羨ましい限りです。

でも、みつ子自身もAとの関係をずっと続けるわけにはいかない、という筋が個人的には刺さりましたね。そういう描写が後半繰り返し描かれるところが良かったです。みつ子の人間的な成長がAを通して感じられるというのもこの本の面白さですよね。ちょこっと紹介すると、次のようなAのセリフです。

「私と離れようとしているのは、あなた自身です。こんな場所に耽溺していてはいけない、いつか戻ってこれなくなると怯えているのもあなたです。そしてその怯えは正しい。人間が必要とするのは、いつも自分以外の人間ですよ。他人との距離は一万光年より遠くても、求めるのは他者の存在なんです」

Aを求めながらも結局はそれは自分自身でしかないという事実を「怯え」としてみつ子は感じているのだが、その感情こそが外へ向かっていく契機なんだと気づく。これがすごく印象的だった。ほんとその通りだなと思いました。今年の最後に良いメッセージをもらえたなぁと思いました。

戦争とか物価高騰のような不景気で来年もなんだが生活やら厳しくなりそうですが、健康に暮らしていきたいですね。こんな風に本を読んでもちっとも生活は良くはなりませんが、そこに向かっていく活力だけは本で溜めておこうと思いました。

ではでは、よいお年を。