逸脱に対する「同情」が見落とすかもしれないこと

 

年末年始から小説をいくつか読んだ。

 そのうちは、去年のブログで紹介した通り、綿矢りささんのものだ。ウィキペディアがいう発表順にしたがえば、次のとおりになる。

①2001年『インストール』河出書房新社

②2003年『蹴りたい背中河出書房新社

③2017年『私をくいとめて』朝日新聞出版

 ①と③は図書館で借りて、単行本を読んだ。②はBOOKOFFでたまたま発見して、こちらは河出文庫のものを買って読んだ。③の映画を観て初めて綿矢さんのことを知り、実際に本を読んだ。その後、初期の作品から順番に読んでみたいと思い、①から②へと読み進めていった。

 ウィキペディアで発表順を調べていると、①は河出文庫版でのみ「You can keep it」というタイトルの「書き下ろし」があるそうだ。どんな内容なのかとても気になる。「書き下ろし」は小説ではないだろうから、とすると著者自身による「解説」なのだろうか。もし「解説」だとしたら、絶対に読まなくちゃ。そして、文庫版が2005年に発刊されたということは、綿矢さん自身は大学生のころなのかな。自分くらいの歳の人が(もちろんそのころの綿矢さんがという意味だけど)、どういう心境で小説を書こうと思ったのか、また書いていてなにか「壁」を感じたとしたならそれはどういうものだったのか、そういうことがやっぱり気になる。この話とは関係ないけれど、確か単行本には「書き下ろし」も、他者による「解題」も何も無しだったと思います。

 今回は疑問点や感想を書こうと思う。③は前回のブログで書いたので省略です。

 もし小説が読み手に対する明確なメッセージを持っているとするならば、今回の『インストール』について、僕はうまく受けとることができなかった。比べるわけではないけど『私をくいとめて』の方が僕としては反応がしやすかった。なぜなのかはいまだによく分からない。主人公である「朝子」は、ある時突然「高校生活」から逸脱する。そして、逸脱した先にあった居場所が「風俗チャット」だった。ここまでは分かる。分かるというと何か隠されているようで大げさな言い方に聞こえるけれど、今紹介したのは客観的な筋だと思う。「風俗チャット」では、実際に「朝子」が「朝子」として登場するわけではなく、「雅」という風俗嬢の「代わりに」チャットをする。つまり、「朝子」は「雅」を演じなくてはならない。演じることを通して「朝子」は何をつかんだのか結局まだよくわからないままだった。もう一度読みたいと思った。

 「逸脱」という視点に立てば、もう一つの作品である『蹴りたい背中』は、僕の最初の読後感では「苦しかった」と感じた。主人公の「長谷川初実」は「さみしさ」を抱えているわけだが、同じ境遇の(そうだと初実が考えている)「にな川」とはどうも共有できない。「初実」は、「にな川」だって今の高校生活は「辛い」はずなのに、どうしてそんな飄々とした態度でいられるのか分からない。「にな川」には「推し」のモデルがいて、普段の実際的な生活上では逸脱を意識させながらも、それで何とか「にな川」なりに平気でいられる。「初実」にはそういうのが無いから「にな川」に対してなぜなんだよ!と思う。だから「蹴りたい」。「解説」で作家の斎藤美奈子さんがここらへんのことをうまく書いてくれています。僕が思ったのは、自分自身も高校生活の途中から初実のような気持ちになったことがあり、でも言語化したことはあまりなかったから、こうして小説というかたちでまざまざと読ませられると苦しいなということです。「初実」のような「強がり」はめちゃくちゃ分かる。「初実」はまだ高校1年生でまだ丸2年なんとかやっていかないといけない。その事実は絶望的なことかもしれない。なんとかやってほしいなと思いました。「蹴りたい」気持ちは何なのか語り合っていく仲間をつくるのが大切ですよね。

 でも、矛盾するようだけど、二人の思考や行動を「強がり」として見ることは違うのかもしれない。僕のこういう発言は「初実」からすれば「うまくやれていない自分に対するアドバイス」と感じられて余計にイライラするかもしれないからだ。こういう安易なスティグマに対抗している「初実」は「強がり」ではなくて実際に強い。その点では僕は斎藤さんの解釈である「強がり」というモチーフは「初実」の実像と違うと思った。「初実」や「にな川」はときに「強がり」によって「わざとはぐらかしている」ように見えるけど、そうではなくて、「友達とはだれのことをいうのか(あるいはどこからが友達なのか)」や「このわたしが抱えるさびしさはなになのか」を必死で考えている。「強がり」として二人を捉えると、こういう大切な疑問が見えなくなってしまう。それは絶対に避けた方が良いし、僕は二人のように根本的に物事を考えることのできる人を強い人だと思う。

 

 あとは、村上春樹スプートニクの恋人』も読んでいたけどブログ記事のボリュームが多くなるし、感想や疑問点の書き方も変える予定なので次回にまわししたいと思います。

 ここまでたくさん読んでくれてありがとうございます。

 ほなまた!